2008.12.03 (Wed)
涼宮ハルヒのおままごと
「おままごとをやるわよっ」
誰がこんな発言をしたかは説明するまでもないだろう。
「ストレスが貯まってるなら相談に乗るぞ?」
過度な心理的抑圧を受けていれば幼児退行を引き起こすとか聞いたことがある気がするぞ。
「次に無駄口を叩いたら平団員からSOS団備品に格下げだからね」
「やあ、おままごとですか。実は幼い頃にやりそこねていたので一度興じてみたかったのですよ。さすが涼宮さん」
「それって確かお芝居の一種でしたよね?」
何故かウキウキした様子の古泉と朝比奈さん。
ついでに言えば長門も本から顔をあげ興味ありげな様子だ。
「なかなか鋭いわよみくるちゃんっ」
「まさか演技力の向上のために、ままごとをやろうってんじゃないんだろうな?」
「喜びなさい。あんたは今の発言で備品に確定したけど、ままごとの間は人として扱ってあげる」
こういうあらさまな人権無視はどこに相談したらいいんだ?
子ども相談所は携帯からでもOKなのか?
「さてそれでは役割を決めなければなりませんが……」
「あ、くじに使うつまようじならありますよ。お茶うけに使う用に持ってきて置いてるんです」
「その心配はいらないわ! 高校生のままごとは幼稚園児のそれとは次元が違うのよ! まず有希は、気弱で甘えん坊な末っ子の男子小学生よ! いくら万能の有希でも普段以上に奮闘しないと泣きを見るわよっ」
「……それは平均的な人格でいいの」
何故か俺を見据えて質問する長門。
「そうだな。よくいる小学生な感じでいいんじゃないか?」
「……了解した」
「次に古泉くんっあなたは上から二番目の女の子! グレた反抗期真っ盛りな中学生よ!」
「反抗期、ですか」
何か困ったような顔をしているがどうでもいい。
「んでSOS団が産み出したスターみくるちゃんは優しい高校生の長男!」
「え? 私、男の子役なんですか?」
なるほどな。
なんてことはない。ただ自分の性別とは逆の役をやれってんだろ?
「そういうことっ アンタは私のことをダーリンって呼んでもいいわよ。キョンなんかには演技力なんて期待してないから適当に主婦っぽいこと言ってなさい」
「誰がダーリンなんて呼ぶか。それよりもDVは止めてくれよ?」
さりげないが俺の心からの願いにフフンと鼻で笑って答えると、ハルヒは席を立って部室の外に出ていった。
「このドアを閉めた時点で開始よ!シチュエーションは夕食中に父親が帰ってきた、よ」
意味はよく分からんが今に始まったことじゃない。
バタンとドアが乱暴に閉じられる。
その途端にくいくいと制服の袖を引っ張られる。
「……お腹空いた。早く食事を」
「あ?ああ、そうだな。飯の時間だったな」
「も〜お母さんがそんな言葉づかいをしているから古泉くんが不良になっちゃうんですよ?」
「はぁ……すいません朝比奈さん」
「お話のところ申し訳ないのですが早く食事を終えて出掛けなくてはレディースの集会が始まってしまいますので」
下手なのは間違いないが、ずいぶん楽しそうに演技する三人。
朝比奈さんと古泉もままごとをやったことがなくて新鮮なのかもしれない。
俺は妹に散々つきあわされていたから、面倒くさいだけだが。
「……早く食事を」
「あー、わかったからそんなに腰にしがみつくんじゃありません」
こいつはこいつで張り切っているらしく、俺の妹を思い出させるような動きとセリフを言ってはいるが……他の奴が見れば乗り気とは思えないような無表情だけどな。
「ほらよ、待たせたな。でっかいステーキだぞ。お茶は朝比奈さんお願いします」
「はーい、ただいまお持ちします」
適当に本棚から分厚い本を取ってきて全員の席に置く。
こんなにぶ厚いステーキなんてあるのかねえ。
「……手で食べるの?」
細かいな。
「なに言ってるんだ長門。フォークとナイフだって置いてあるだろ?」
実際には置いてないが、こういうのは置いてあるとしてやるものだろう。たぶん。
「あなたが言う目の前とは? 私の前には本以外のいかなる物質も存在していない」
しつこく食い下がる長門。
朝比奈さんがお茶を配るついでに長門になにかを耳打ちする。
「……平均的な家庭にあるフォークとナイフがテーブルに置かれていた。私は目が悪いからよく見えていなかった。その証拠にかつてメガネをかけていた」
いちおうハルヒの言葉どおり奮闘しているらしい。
「帰ったわ!」
オカマの父親なのだろうか。
それとも素で女言葉なのか?
「こらキョン! ボケッとしてないで帰ってきた亭主になにか言うことがあるんじゃないの?」
「えーっと、ごはんにするか? 風呂か? それとも俺?」
場の空気が凍りついた。
「馬鹿じゃないの?」
「う、うるせえ! いきなり俺にふってくるなよっ」
「まあいいわ。じゃあ乗ってあげようじゃない」
言うなり俺に襲い掛かってくるハルヒ。
「お、おいっ なにするんだ!? やめ、やめろって!」
「ふふふ、なによ? 主人の求めにこたえるのも主婦の役目ってやつよ」
「ば、ばか! いやっ おやめになって! ひゃあー!」
「そんなこと言ってほんとは嬉しいくせにっ 嫌よ嫌よも好きのうちってね」
「お前はサザエさんでも見て健全な家庭を学習しろっ 子どもたちが見てるだろうが!」
「そうだったわね」
あっさりと俺を放すハルヒ。
「みんな良い子にしてた?」
「いえ、僕は反抗していました」
「そうなんです、古泉くんったら反抗ばかりしていて……。私は良い子にしていましたよ」
「な、なんか違う気がするけど……まあいいわ。で? 有希はなんで本なんか噛んでるの?」
また訳の分からんことを言い始めたハルヒ。
「と思ったらマジか!? 長門っ 別に本当に食う必要は無い! 食べるふりだけするものなんだよっ」
「……ままごとに関する詳細な説明が不足している」
長門はちょっと拗ねている……ような気がする。
「ああ、食事中だったのね。本なんか目の前に置いてるもんだから、てっきりあんたたちがシチュエーションを学校かなにかと勘違いしているんだと思ったわ」
「シチュエーションのミスよりも、キャストのミスのほうが大きいと思うぞ」
長門に朝比奈さんに古泉という三人には根本的に役者が向いていないような気がするんだが。
「うるさいっ いいから続けるわよ!」
その後、タラちゃんも鼻で笑いそうな寒いホームドラマが部室内で繰り広げられた。
「今日の演習で次回作がより良き作品になるのは疑いなしでしょう」
前衛的なコメディムービーでも撮るつもりかよ。
「今回の涼宮さんの行動をどう考えますか?」
「どうって……演技力の向上だろ?」
「それは表面上の理由に過ぎません」
なんでも裏側があるって考えるのもどうかと思うが。
「前回の時は、彼女はあなただけを連れて行った。これはまさに世界の存在そのものを揺るがす事態でした」
「いきなり何を言い出すんだよ」
「しかしそういった大きな事態とは呼べない――そう、ごく些細な事柄も含んでいます。それはひどく感情的な問題です。しかし僕に……僕たちには少しショックなことです」
「俺たち?」
「いいえ。僕たちです」
「だから俺たちにショックな事だろ?」
「違いますよ。ショックだったのは僕たちだけです」
「……どういう意味だよ」
「さて、それは僕の口から言うのはどうでしょうか。出題者が解答を述べるというのはナンセンスですから」
ふと前を歩いている三人娘に目を向ける。
古泉と同様、やはり朝比奈さんと長門もなんとなく嬉しそうだった。
涼宮ハルヒのおままごと END
誰がこんな発言をしたかは説明するまでもないだろう。
「ストレスが貯まってるなら相談に乗るぞ?」
過度な心理的抑圧を受けていれば幼児退行を引き起こすとか聞いたことがある気がするぞ。
「次に無駄口を叩いたら平団員からSOS団備品に格下げだからね」
「やあ、おままごとですか。実は幼い頃にやりそこねていたので一度興じてみたかったのですよ。さすが涼宮さん」
「それって確かお芝居の一種でしたよね?」
何故かウキウキした様子の古泉と朝比奈さん。
ついでに言えば長門も本から顔をあげ興味ありげな様子だ。
「なかなか鋭いわよみくるちゃんっ」
「まさか演技力の向上のために、ままごとをやろうってんじゃないんだろうな?」
「喜びなさい。あんたは今の発言で備品に確定したけど、ままごとの間は人として扱ってあげる」
こういうあらさまな人権無視はどこに相談したらいいんだ?
子ども相談所は携帯からでもOKなのか?
「さてそれでは役割を決めなければなりませんが……」
「あ、くじに使うつまようじならありますよ。お茶うけに使う用に持ってきて置いてるんです」
「その心配はいらないわ! 高校生のままごとは幼稚園児のそれとは次元が違うのよ! まず有希は、気弱で甘えん坊な末っ子の男子小学生よ! いくら万能の有希でも普段以上に奮闘しないと泣きを見るわよっ」
「……それは平均的な人格でいいの」
何故か俺を見据えて質問する長門。
「そうだな。よくいる小学生な感じでいいんじゃないか?」
「……了解した」
「次に古泉くんっあなたは上から二番目の女の子! グレた反抗期真っ盛りな中学生よ!」
「反抗期、ですか」
何か困ったような顔をしているがどうでもいい。
「んでSOS団が産み出したスターみくるちゃんは優しい高校生の長男!」
「え? 私、男の子役なんですか?」
なるほどな。
なんてことはない。ただ自分の性別とは逆の役をやれってんだろ?
「そういうことっ アンタは私のことをダーリンって呼んでもいいわよ。キョンなんかには演技力なんて期待してないから適当に主婦っぽいこと言ってなさい」
「誰がダーリンなんて呼ぶか。それよりもDVは止めてくれよ?」
さりげないが俺の心からの願いにフフンと鼻で笑って答えると、ハルヒは席を立って部室の外に出ていった。
「このドアを閉めた時点で開始よ!シチュエーションは夕食中に父親が帰ってきた、よ」
意味はよく分からんが今に始まったことじゃない。
バタンとドアが乱暴に閉じられる。
その途端にくいくいと制服の袖を引っ張られる。
「……お腹空いた。早く食事を」
「あ?ああ、そうだな。飯の時間だったな」
「も〜お母さんがそんな言葉づかいをしているから古泉くんが不良になっちゃうんですよ?」
「はぁ……すいません朝比奈さん」
「お話のところ申し訳ないのですが早く食事を終えて出掛けなくてはレディースの集会が始まってしまいますので」
下手なのは間違いないが、ずいぶん楽しそうに演技する三人。
朝比奈さんと古泉もままごとをやったことがなくて新鮮なのかもしれない。
俺は妹に散々つきあわされていたから、面倒くさいだけだが。
「……早く食事を」
「あー、わかったからそんなに腰にしがみつくんじゃありません」
こいつはこいつで張り切っているらしく、俺の妹を思い出させるような動きとセリフを言ってはいるが……他の奴が見れば乗り気とは思えないような無表情だけどな。
「ほらよ、待たせたな。でっかいステーキだぞ。お茶は朝比奈さんお願いします」
「はーい、ただいまお持ちします」
適当に本棚から分厚い本を取ってきて全員の席に置く。
こんなにぶ厚いステーキなんてあるのかねえ。
「……手で食べるの?」
細かいな。
「なに言ってるんだ長門。フォークとナイフだって置いてあるだろ?」
実際には置いてないが、こういうのは置いてあるとしてやるものだろう。たぶん。
「あなたが言う目の前とは? 私の前には本以外のいかなる物質も存在していない」
しつこく食い下がる長門。
朝比奈さんがお茶を配るついでに長門になにかを耳打ちする。
「……平均的な家庭にあるフォークとナイフがテーブルに置かれていた。私は目が悪いからよく見えていなかった。その証拠にかつてメガネをかけていた」
いちおうハルヒの言葉どおり奮闘しているらしい。
「帰ったわ!」
オカマの父親なのだろうか。
それとも素で女言葉なのか?
「こらキョン! ボケッとしてないで帰ってきた亭主になにか言うことがあるんじゃないの?」
「えーっと、ごはんにするか? 風呂か? それとも俺?」
場の空気が凍りついた。
「馬鹿じゃないの?」
「う、うるせえ! いきなり俺にふってくるなよっ」
「まあいいわ。じゃあ乗ってあげようじゃない」
言うなり俺に襲い掛かってくるハルヒ。
「お、おいっ なにするんだ!? やめ、やめろって!」
「ふふふ、なによ? 主人の求めにこたえるのも主婦の役目ってやつよ」
「ば、ばか! いやっ おやめになって! ひゃあー!」
「そんなこと言ってほんとは嬉しいくせにっ 嫌よ嫌よも好きのうちってね」
「お前はサザエさんでも見て健全な家庭を学習しろっ 子どもたちが見てるだろうが!」
「そうだったわね」
あっさりと俺を放すハルヒ。
「みんな良い子にしてた?」
「いえ、僕は反抗していました」
「そうなんです、古泉くんったら反抗ばかりしていて……。私は良い子にしていましたよ」
「な、なんか違う気がするけど……まあいいわ。で? 有希はなんで本なんか噛んでるの?」
また訳の分からんことを言い始めたハルヒ。
「と思ったらマジか!? 長門っ 別に本当に食う必要は無い! 食べるふりだけするものなんだよっ」
「……ままごとに関する詳細な説明が不足している」
長門はちょっと拗ねている……ような気がする。
「ああ、食事中だったのね。本なんか目の前に置いてるもんだから、てっきりあんたたちがシチュエーションを学校かなにかと勘違いしているんだと思ったわ」
「シチュエーションのミスよりも、キャストのミスのほうが大きいと思うぞ」
長門に朝比奈さんに古泉という三人には根本的に役者が向いていないような気がするんだが。
「うるさいっ いいから続けるわよ!」
その後、タラちゃんも鼻で笑いそうな寒いホームドラマが部室内で繰り広げられた。
「今日の演習で次回作がより良き作品になるのは疑いなしでしょう」
前衛的なコメディムービーでも撮るつもりかよ。
「今回の涼宮さんの行動をどう考えますか?」
「どうって……演技力の向上だろ?」
「それは表面上の理由に過ぎません」
なんでも裏側があるって考えるのもどうかと思うが。
「前回の時は、彼女はあなただけを連れて行った。これはまさに世界の存在そのものを揺るがす事態でした」
「いきなり何を言い出すんだよ」
「しかしそういった大きな事態とは呼べない――そう、ごく些細な事柄も含んでいます。それはひどく感情的な問題です。しかし僕に……僕たちには少しショックなことです」
「俺たち?」
「いいえ。僕たちです」
「だから俺たちにショックな事だろ?」
「違いますよ。ショックだったのは僕たちだけです」
「……どういう意味だよ」
「さて、それは僕の口から言うのはどうでしょうか。出題者が解答を述べるというのはナンセンスですから」
ふと前を歩いている三人娘に目を向ける。
古泉と同様、やはり朝比奈さんと長門もなんとなく嬉しそうだった。
涼宮ハルヒのおままごと END
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